チクタク氏の医学ブログ

とある医学生の戯言です。語源とかゴロとか。

期待値に基づく禁忌対策

みなさんは医師国家試験における禁忌問題をご存知でしょうか。

国試の合格基準の一つであり、3問までは選んでも大丈夫ですが4問以上選んでしまうと、必修やパンリンで9割でも無条件に落ちると言う制度です。

要はバラエティ番組で言うところのドボン問題のことです。

この記事ではそんな禁忌問題対策と、113回の試験本番で私が実際に行ったノーマーク戦術による禁忌肢回避について紹介します。

 

 

都市伝説と言われてきた禁忌落ちと112回の悲劇

予備校各社の分析によると、111回医師国家試験までは禁忌落ちの報告はほぼ皆無で、予備校各社や受験生の間では『普通の試験対策で正解を選ぶ訓練をしていれば十分に禁忌を踏まないだろう』と言われてきました。

ところが112回では禁忌落ちが20名以上報告され、筆者の大学の一つ上の先輩でもパンリン85%程度取れた優秀な方が禁忌単独落ちしてしまいました。

従って113回の受験生である筆者は嫌が応にも禁忌の恐怖に対峙することとなりました。

 

禁忌対策の教材不足

112回は6名が禁忌落ちと発表された103回以来、約10年ぶりとなる禁忌落ちが続出する年となった訳ですが、これまであまりに禁忌落ちが少なかったため各出版社や予備校各社の禁忌対策の教材はお世辞にも揃っているとは言い難い状況でした。

レビューブック禁忌なども目を通しましたが、正直、強弱のない禁忌の羅列で暗記にも適さないし、実際の臨床問題に潜む禁忌を見抜く訓練もできないので実用的ではないなと言う印象です。

唯一、実際にやって良かったと感じ、皆さんにおすすめできるのはmedu4の禁忌特講です。禁忌特講のみでも2000円代で購入でき、他の講座とセットでもう少し安く購入できます。

medu4禁忌特講の良さは

・過去問の臨床問題を中心に禁忌を回避する練習ができる。

・禁忌肢がなぜ禁忌なのかという考え方を学べる。

・禁忌に対する詳細な分析や、解く際の心構えを学べる。

・禁忌を含む臨床問題は病態を考えさせる問題が多く、掲載問題を解くでけで良い演習になる。

など挙げたらキリがないのですが、取ってみることをおすすめします。

 

禁忌対策の勉強法

禁忌対策の勉強法ですが、基本はテキストや問題に出てきた禁忌を逐一覚えていくことです。特に作動薬と抑制薬があるところや、小児産婦などは重点的に対策すべきです。これは大抵の人が既にやっているので、わざわざ説明するまでもないでしょう。

特別にやることとしては問題演習で選ばなかった選択肢が禁忌な気がしたらメモしておいて、あとで確認することがオススメです。この形式で演習をしているうちに、禁忌に対する嗅覚が優れていきます。

また禁忌になりやすいワードが問題文にあれば、そこで読むのを中断して選択肢に怪しいものがないかチェックしていました。特に既往歴には注意が必要です。具体的には、喘息の既往歴をみたらβ遮断薬がないか、ペースメーカーの人でMRIをとらないか等。



模試でも禁忌を意識すべし

『模試は本番のように、本番は模試のように解く』という格言にもある通り、模試でも禁忌かどうか考えながら解く癖をつけるべきでしょう。

ぶっつけ本番で禁忌を恐れてマークを回避するといったことに挑戦するのはオススメしません。

 

期待値に基づくノーマーク戦術

ノーマーク戦術とは禁忌肢を選ばないために、解答のマークをせずに問題を見送ることです。

ノーマークをする基準は、『禁忌を踏むリスクが、ノーマークで失点するリスクを明らかに上回った時』です。ただし、ここはかなり厳しめに基準を作る必要があります。

筆者の行った詳細な基準は以下です。

 

・必修問題はノーマークせずに全て解答する。

・複数選択の問題や適切でないものを選ぶ問題は全て解答する。

・他の選択肢が切れて合っている自信があれば基本は怖くても解答する

・解答に迷ってて、副作用の知識が怪しい場合はノーマークを考慮

・知らない薬や治療が消去法で残ったらノーマークを考慮

・妊婦や小児などの禁忌が多い分野で怪しかったらノーマークを考慮

・模試でのパンリンのボーダーとの点数差がリスクを決める距離(筆者は15点程度)

・ノーマークは1ブロックに多くとも2つまでで、全ブロックで5つ程度まで

 

軽く説明しますと、ノーマークは基本的に300点満点で1問の重みが軽いパンリンのブロックで行います。必修は1問の重みが大きすぎるので禁忌を選ぶリスクよりも失点リスクが大きいです。禁忌は全ブロックの総数が勝負なので、必修で禁忌を選んでもパンリンで取り返すというのが戦略の根幹にあります。

禁忌の具体的な数は分かりませんが、medu4禁忌特講の冒頭では先生の推測ですが、20個ほどの禁忌候補のうち10個ほどが実際に発動しているのではないかと書かれていたのでこれを参考にします。実際の受験生が禁忌か迷ったとしてもそれが禁忌候補である可能性は半分もないと思うので1/4程度と考え、禁忌候補である上に発動する確率を12.5%と仮定します。3つまでは大丈夫なので1回攻めるごとに約4%だけ不合格リスクを負うとします。

また、自信のある選択肢は9割がた合っていますので、失点リスクの期待値が0.9点ほどと大きくなります。合格点との距離が15点の場合は約6%の不合格リスクを負います。従って自信ある問題は不安でも鉄の心でマークします。

逆に2択3択などで迷った問題であれば、失点リスクの期待値は0.5点や0.3点(不合格リスクは約2~3%)となり、ここで禁忌のリスクをとる価値はないと考えます。また迷った時点で割れ問題の可能性が高く合否を分けないと考えてノーマークします。




国試本番でのノーマーク戦術

筆者が実際に本番でノーマークを選択したのは結局のところ1問だけでした。

その問題が以下で、これを参考に解説します。

https://medu4.com/113A8

こちらの問題は『妊娠10週』とあり、器官形成期でまさに催奇形リスクの温床といった時期の問題です。ここでよくある抗菌薬や糖尿病薬や降圧薬を選べせる問題であれば、ある程度の自信を持って選ぶべきですが、今回は尋常性乾癬の問題です。

尋常性乾癬だけの治療法であれば、PUVAビタミンDステロイドも聞いたことあった気がします。しかし、『内服って何を内服するの?』『ビタミンって内分泌を撹乱して奇形おこしそう…』『ステロイドってただでさえ副作用多いのに胎児は大丈夫?』といった疑問が湧いてきました。おまけに『ビタミンAなんてATRA療法の仲間じゃん、分化に影響するじゃん』みたいな選択肢も紛れている。

これ以上は勉強不足のために選択肢をa,d,eから絞り切れませんでした。

ここでノーマーク戦術の出番です。

パンリン。3択なので失点リスクは0.3点(不合格リスク2%程度)。たぶんd,eあたりで受験生も割れそうです(実際割れてました)。割れ問であれば失点も痛くです。さらに外した場合に禁忌と言われても文句の言えない選択肢の並びです。

以上から筆者は禁忌回避のためにノーマークにしました。



まとめ

禁忌対策について書いてきましたが、いかがだったでしょうか。

あまり禁忌に関して触れた記事も多くないので、ブログを書いてみました。

やはり国試の合格率の性質上、国試が終わっても多くの人が点数的に合格点でも禁忌が気になるという人が多いです。人生最後の春休みを楽しんでいるのに心の片隅にある不安、これを最小限にできたらと考えてまとめてみました。

 

余談:ギャンブル中毒からみた国試

以下は狂人の戯言なので、不適切な表現が多々ありますが、寛大な心でご容赦いただけると幸いです。

ここだけの話でやや不謹慎(?)なのですが、国試を受けていた時の正直な感想は『楽しい』でした。

それが何故なのかその時は分からなかったのですが、今思うと筆者は国試本番をギャンブルのように捉えていたのかもしれません。

実は筆者は昔から確率を駆使するゲーム、つまりギャンブル(花札ポーカー麻雀など)が大好きなんです。上記の期待値に基づく選択の方法も元を辿るとギャンブルの発想です。

禁忌が怖くても自信のある問題は自分を信じてマークする、このスリルはまさにレイズやゼンツそのものです。ノーマーク戦術はいわばフォールドでありベタオリなのです。

ギャンブルではリスクとベネフィットの期待値を瞬時に計算して判断を下すことが求められます。そのために日頃から判断根拠について勉強をするものなのです。ギャンブルというと怪しいイメージがあると思いますが、座学と実践の積み重ねなんです。これは合否付近にいる受験生(偏差値30~50あたり)に近い状況だと筆者は考えます。

国試について考えてみると、模試の偏差値は40代で合格するかは分からない状況でした。筆者の場合は受かれば年収500万以上、落ちればMECで300万の授業料と一年の勉強生活。掛け金の上下が800万で、たった二日たった400回の試行回数でそれだけ動くギャンブルと考えると、そのスリルもなかなかのものです。平均するとたった1問(1回の試行)で2万円と1日弱の時間を失うなんて正気の沙汰ではないです。

よく『国試せん妄』なんて言葉を見かけますが、それは本番のプレッシャー下での緊張で普段通りの力を出せないことに起因します。ギャンブルでもプレッシャーのかかる場面が多いのですが、その対策として『あらかじめ判断基準を明確にしておいて、本番は基準通りに機械のように判断を下す』ということがメジャーに行われています。筆者はギャンブルで緊張下での状況判断の練習を積んできたため、冷静に普段と同じ判断を高い再現性でできました。ありがとうギャンブル

(合格体験記風に締めくくってみました)